「4分57秒の遅刻ね蓮子。あと3秒でジュースを奢ってもらえたのに残念。」 「つまり私は間に合ったってことね。」 夜の駅で待ち合わせて、二人は旅立った。 目指すは山奥。現実と幻想が混ざり合う、聖なる山。神が住む山。 誰も居ない駅で降りて、懐中電灯をつける。駅の周りには街灯もあるが、五十歩も離れるとそこは暗闇の中。 空気の粘性が変わってしまったかのように、二人の歩は遅くなってゆく。 「夜の山は危険よ。」 「もちろん。昼の平野には何も無いわ。」 心もとなく揺れる二つの灯火《ともしび》。下調べは十分にしてあるのに、二人の心を恐怖が蝕《むしば》む。 メリーは蓮子の手を強く握った。それを握り返して、蓮子はぐい、ぐい、と山道を歩く。 星も、月も、届かない。森の中。虫の声と暗闇の気配。そして二人の呼吸が、ここにある全てだった。 不意に木々が無くなり、空が開けた。人里では見られなくなった星々が、儚《くら》い世界を明るく包んでいる。 「えっ、時間がわからない……。 違う、これは、昔の星空…………!?」 「空一面に境界が広がっているのよ。それにしても、なんて大きな境界なの……?」 「ねぇ、メリー! あれ! 見て!」 夜の闇の中に突然、強く輝く閃光。その光はゆっくりと天球を昇《のぼ》り、ついには遠い星々と一体になった。